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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)1471号 判決 1990年2月28日

原告

星野きくゑ

ほか二名

被告

株式会社ユニテイ

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告星野きくゑに対し、金三三三万八二三〇円及びこれに対する昭和六三年九月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告星野きくゑのその余の請求、原告星野孝及び原告星野節子の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告星野きくゑ(以下「原告きくゑ」という。)に対し金九〇一万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年九月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告星野孝(以下「原告孝」という。)に対し金二七七万九〇〇〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告星野節子(以下「原告節子」という。)に対し金二七七万九〇〇〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 昭和六三年九月二一日午前七時五〇分ころ

(二) 場所 大阪府松原市小川町三〇七番地の七先市道上

(三) 加害車 普通貨物自動車(なにわ四四そ三一四七、以下「被告車両」という。)

(四) 右運転者 被告藤畠和明(以下「被告藤畠」という。)

(五) 被害者 訴外星野務(以下「亡務」という。)

(六) 態様 被告藤畠は、被告車両を運転し前記場所の道路を東から西へ進行中、その道路を横断すべく自転車に乗つて南側農道から進行してきた亡務に被告車両を衝突させて同人を転倒させ、同人に脳挫傷等の傷害を負わせ、昭和六三年九月二一日午前九時ころ死亡に至らしめた。

2  責任原因

(一) 被告藤畠は、制限速度を遵守することはもとより、徐行するなどしたうえ、左右確道路からの進入車両の有無に注意して進路の安全を確認して進行すべき義務を怠つた過失により本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

(二) 被告株式会社ユニテイ(以下「被告会社」という。)は、被告藤畠の使用者であり、本件事故は被告藤畠が被告会社の事業の執行につき発生させたものであるから、民法七一五条一項により損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 亡務の損害

(1) 逸失利益 六九四万二〇〇〇円

亡務は、本件事故当時七六歳であつたので、七六歳男子平均賃金年額三〇〇万円を基礎とし、生活費控除率を三五パーセントとし、就労可能年数を四年間(新ホフマン係数は三・五六)として逸失利益を算定すると、次の計算式のとおり六九四万二〇〇〇円となる。

3,000,000×(1-0.35)×3.56=6,942000

(2) 慰謝料 一六〇〇万円

(二) 原告らの相続

原告きくゑは亡務の妻であり、原告孝及び同節子は亡務の四人の子のうちの二人である。

(三) 原告らの慰謝料

原告らは亡務の死亡により、各自、金二〇〇万円に相当する精神的損害を被つた。

(四) 弁護士費用

原告らは本件事故に基づく損害賠償請求のために原告ら代理人に訴訟の提起・追行を委任し、その報酬として、原告一人当り各三〇万円の支払を約した。

(五) 各原告の損害額

以上(一)ないし(四)に基づいて各原告の損害額を計算すると、原告きくゑが一三七七万一〇〇〇円、原告孝及び原告節子が各五一六万七七五〇円となる。

4  損害のてん補

原告らは、自動車損害賠償責任保険から左記のとおり保険金の支払を受けた。

原告きくゑ 四七五万五〇〇〇円

原告 孝 二三八万八七五〇円

原告節 子 二三八万八七五〇円

5  損害賠償請求額

各原告について前記3の損害額から前記4のてん補金額を差し引いて求めた損害賠償請求金額は、原告きくゑが九〇一万六〇〇〇円、原告孝及び原告節子が各二七七万九〇〇〇円である。

よつて、右損害賠償請求権に基づき、被告各自に対し、原告きくゑは金九〇一万六〇〇〇円及びこれに対する本件事故日の翌日である昭和六三年九月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告孝は金二七七万九〇〇〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告節子は金二七七万九〇〇〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(交通事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任原因)の事実は否認する。

3(一)  同3(一)(1)(逸失利益)の事実は否認する。

亡務は、本件事故当時七六歳と高齢であり、当時これといつた仕事をしていなかつたのであるから、就労の蓋然性はなく、損害に関する実損主義の観点からは現実の損害が発生したとはいえない。仮に損害が発生したといえるとしても、原告ら主張の平均賃金は高額に過ぎる。また、就労期間は原告ら主張よりも短期であり、亡務の生活実態からすれば生活費控除率は五〇パーセントである。

(二)  同3(一)(2)(亡務の慰謝料)及び3(三)(原告らの慰謝料)は否認する。

原告らの主張によると、慰謝料は亡務の分と原告らの分を合計して二二〇〇万円であるが、これは過大である。亡務は、現に職についていない六八歳以上の老齢者に該当するので、一五〇〇万円を基準とし、さらに減額されるべきである。

(三)  同3(二)(原告らの相続)の事実は認める。

(四)  同3(四)(弁護士費用)は否認する。

(五)  同3(五)(各原告の損害額)は争う。

4  同4(損害のてん補)は不知。

5  同5(損害賠償請求額)は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故現場の交差点は、亡務側が狭路、被告側が広路となつており、亡務は、一時停止することもなく、右方の安全確認を怠つて被告車両の直前に飛び出してきているので、亡務の過失割合は、四〇パーセントを下ることはない。

2  弁済

被告らは、原告らに対し、本件交通事故に基づく損害賠償の一部として、一六三万円を支払つたが、これは原告らの損害につき相続分に応じて損益相殺されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(過失相殺)は否認する。

2  抗弁2(弁済)は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(責任原因)について判断する。

1  成立に争いのない甲第二号証の四ないし六、第二号証の一三、第二号証の一八ないし二一によれば、請求原因2(一)が認められる。

2  成立に争いのない甲第二号証の一八、第二号証の二一によれば、請求原因2(二)が認められる。

三  請求原因3(損害)について判断する。

1  3(一)(1)(逸失利益)について

成立に争いのない甲第一号証によれば、亡務は、明治四五年三月二四日生まれで、本件事故当時七六歳であつたことが認められる。また、成立に争いのない甲第二号証の一五及び原告きくゑ本人尋問の結果によれば、亡務は、事故当時妻及び三男清夫婦と同居しており、健康であつて、自家用の野菜を作るために小規模な農業を営んでおり、労働の意思と能力を有していたことが認められる。

右事実によれば、本件事故直前の亡務の得べかりし年収は、昭和六三年度賃金センサス第一巻第一表の六五歳以上の男子労働者(学歴計)の平均賃金三一七万一〇〇〇円の八〇パーセント、生活費控除率は五〇パーセント、就労可能年数は四年間(新ホフマン係数は三・五六四)と認めるのが相当である。

よつて、亡務の逸失利益は、次の計算式のとおり四五二万〇五七七円となる。

3,171,000×0.8×(1-0.5)×3.564=4,520,577

2  3(一)(2)(亡務の慰謝料)及び3(三)(原告らの慰謝料)について

本件事故態様、亡務の年齢、生活状況等諸般の事情を考慮すると、亡務本人の慰謝料は一三〇〇万円、原告きくゑ固有の慰謝料は二〇〇万円、原告孝及び原告節子固有の慰謝料は各五〇万円と認めるのが相当である。

3  3(二)(原告らの相続)の事実は当事者間に争いがない。したがつて、原告きくゑの相続分は二分の一、原告孝及び原告節子の相続分はそれぞれ八分の一と認められる。

4  以上によれば、損害額は、原告きくゑが一〇七六万〇二八八円、原告孝及び原告節子が各二六九万〇〇七二円となる。

四  抗弁1(過失相殺)について判断する。

前掲甲第二号証の四ないし六、第二号証の一三、第二号証の一八ないし二一によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

被告車両が走行していた市道(以下「市道」という。)は、車道の幅員が三・二メートルの一方通行のほぼ直線の舗装道路で、北側には西名阪自動車道の高架の橋脚が並んでおり、南側には空き地や田がある。亡務の乗つた自転車が走行してきた農道(以下「農道」という。)は幅員二・三メートルの未舗装の道路である。本件事故現場は、市道と農道の交差点であり、交通整理は行われておらず、交差点の東南角には高さ一・九メートルほどの雑草が茂つているため、相互の見通しは悪い。市道は左右の見通しが悪く道幅が狭いので、ここを自動車で走行する者には、制限速度の毎時三〇キロメートルを遵守することはもとより、徐行するなどしたうえ、左右道路からの進入車両の有無に注意して進路の安全を確認して進行すべき義務が課せられるにもかかわらず、被告藤畠は、交通閑散に気を許し、左右に十分な注意を払うこともなく、制限速度をはるかに上回る毎時七〇キロメートルの高速度で進行し、本件事故現場の交差点の存在に気付かず、南側農道から進行してきた亡務運転の自転車を左前方二一・九メートルの距離に初めて発見し、急制動の措置を講ずるも及ばず、被告車両前部を亡務運転の自転車右側部に衝突させ、亡務を転倒させたものである。他方、自転車を運転していた亡務は、左右の安全を十分に確認して市道を横断すべき義務があるにもかかわらず、左右の安全を十分に確認せず被告車両の前方に進入したものである。なお、本件事故当時、亡務は七六歳と高齢であつた。

以上の事実を総合すると、公平の見地から、原告らの損害について二〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

五  請求原因5(損害のてん補)について判断する。

弁論の全趣旨によれば、原告らは、自動車損害賠償責任保険から左記のとおり保険金の支払を受けたことが認められる。

原告きくゑ 四七五万五〇〇〇円

原告 孝 二三八万八七五〇円

原告節子 二三八万八七五〇円

六  抗弁2(弁済)に当事者間に争いがない。

弁済された一六三万円に、被告ら主張のとおり、各原告について法定相続分の割合に応じて既払金として扱うのが相当である。したがつて、原告きくゑにつき八一万五〇〇〇円、原告孝及び原告節子につき各二〇万三七五〇円となる。

七(一)  各原告について、前記三の損害額について前記四による過失相殺の減額をすると、各原告の損害額は、原告きくゑが八六〇万八二三〇円、原告孝及び原告節子が各二一五万二〇五七円となる。

(二)  右金額から、前記五及び六によつて算出された既払金を差し引いて求めた損害賠償の残額は、原告きくゑについては三〇三万八二三〇円であり、原告孝及び原告節子については残額はない。

(三)  弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係ある損害として、原告きくゑが被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用は三〇万円と認められる。

八  結論

以上によれば、本訴請求は、被告ら各自に対し、原告きくゑが本件交通事故に基づく損害賠償金三三三万八二三〇円及びこれに対する本件事故日の翌日である昭和六三年九月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告きくゑのその余の請求及び原告孝及び原告節子の請求は理由がないからこれをいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

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